もちつきは28日か30日と相場がきまってる。
今回たまたま29日にやることになった。お義父さんがご近所さんに、29日にやるなんて珍しいねと言われた時
「29(ふく)を呼ぶんだ。いいだろう?」と返したそうだ。かっくいー。こういう男になりたい。
炊き立てのもち米。餅つきの副産物ではあるけれど、正直、これを茶碗にもって漬物とかでかきこみたい。炊き具合を見る体面で、みんな数回ずつ味見した。味見というより味わってるよな、これは。僕は4回味見をした。美味いからしょうがない。
代々もちつきをしているわけではなく、楽しそうだからという理由で妻のお義父さんがここ数年で初めたのだけれど、今やすっかり恒例行事。家族で受け継がれている行事や友人同士のお約束も、はじめの一歩があるわけで、楽しいことならどんどんその一歩目を踏み出すべきだと思う。
炊きたてのもち米を臼へと移す。湯気が立ち昇り、天井まで届くとそこからを這うように部屋へ広がった。湯気の当たった部分の板材が湿って色が濃く変わっていた。ストーブにかけたヤカンの湯気と、餅をつく熱と吐息で、部屋の湿度もいくらか上がったような気がした。
ふだんは誰もいない古い家の煙突から満足そうに煙が昇る。
杵でもちをつくと、ズドっという音と一緒に体の芯まで衝撃が伝わる。なんとなく、打ち上げ花火が腹に響くあの感覚に近いかも知れない。杵を振り下ろすと水気と湯気が顔に当たる。
モチをつく瞬間に杵の柄を絞るといい感じに決まる。これは剣道の素振りに通じるものがあるかも知れない。杵の持ち手も竹刀のそれに。バスケが左手を添えるだけなら、剣道は右手を添えるだけ。右手に力を入れるのは打突の瞬間に、と教えられた。
湯気、温度、人肌。寒い冬にいっそう際立つ。そういうものに自然と目が向き写真を撮る。
今年もお義父さんが素手で餅を焼き始めて、アチーって嬉しそうに笑っていた。薪ストーブの前に陣取ってモチが焼きあがるのを待つ時間が僕は大好きだ。